羊毛フェルトへのこだわり
犬種ではなくその子を
こだわりを語るほどまだまだ技術は伴っていないのですが、羊毛をはじめたきっかけは先代にもう一度触れたいという思いからだったため、ただその犬種を作るというだけでは私には意味のないことでした。
兄弟犬の写真を犬を飼っていない友達に見せると「どれがどの子か全然わからない」とよく言われます。私からすれば「こんなに顔が違うのに」と思うのですが、それも愛情を持って日々暮らしているから分かることなのだと思います。
例えば私は小型犬は飼ったことがなくよく知らないので、トイプードルやチワワが何頭もいるドッグランを見ると、同じ毛色の子は皆同じように見えてしまいます。けれど飼い主様は当然ながら自分の子は迷うことなくお分かりになられます。それは犬種の枠を超えその子そのものを見た目から性格まで心から愛しているからなんだろうなぁと。
同じ犬種でも毛量の多い子少ない子、目がタレ目の子キリリとした子、マズルの短い子、長い子、両耳の間隔が狭い子離れている子と様々です。
また、顔のパーツは似ていてもその位置が違うだけでだいぶ印象が変わってきます。
飼い主様が愛している「その子」をできる限り忠実に作るということを目指していけたらいいなと思っています。
使用している羊毛
羊毛フェルトはその名の通り、羊の毛を使って作成します。
フェルティングニードルという針の先端にギザギザがある特殊な針を使って毛を植え込んだり、体の形を刺し固めて作り込んでいきます。
一般的に羊毛フェルトではメリノという品種の羊の毛が幅広く使われています。
手触りは滑らかで毛は細くツヤもあり上品なふんわり感があるので使いやすい一方、コシがないのでへたりやすい特徴があります。私の技術の問題も大いにありますが、メリノだけでサモエドを作ろうとなるとあのゴージャスな毛はなかなか表現できません。
羊には様々な品種があり、手触りはゴワゴワしているけれどふっくらとして時間が経ってもへたりにくいもの、ニードルではまとまりづらい毛質だけれどくっきりとしたツヤがあるもの、単体で使うには向いていないけれど直毛でコシの強いもの、と様々です。
また、メリノと一言で言っても羊も生き物なので産地や毛刈りされた時期によっても毛質に差が出ます。
私の場合は、以下の羊毛を取り寄せています。
- メリノ(産地違いで3種類)
- コリデール(産地違いで2種類)
- クロスブレッド
- シェットランド
- ロムニー
- ゴッドランド
- チェビオット
- ポルワス
- ブルーフェイス
これらを色々組み合わせてみてああでもないこうでもないと試行錯誤した末に自分用のブレンドを作りました。現在、主力で使用している羊毛は3種類です。これらのブレンドする比率を変えるとパピーっぽい毛質だったり固めの毛質の子に対応できるようになります。
また、羊毛以外にも
- アルパカ
- モヘア
- シルク
- カシミヤ
- キャメル
などの獣毛があり、羊毛では表現しきれないぬめり感を出したい場合など、その子の毛質に応じてブレンドに追加しています。
グラスアイ
目は口ほどに物を言う、と言いますが、目をできる限りその子に近いものにするとリアルさがぐんと増します。
目の色もその子その子で微妙に違い、一見すると同じ茶色系の目でも、よく見るとこの子はちょっと赤みのある茶色、あの子は黒味の強いグリーンが混ざったような茶色などなど。
なるべくその色に近いようにベースを作り、半球のガラスに馴染む特殊な薬剤(透明度が高く強力に貼り合わせるもの)で貼り付けています。
はじめは半球ガラスにレジンで貼り合わせるというやり方を試したのですが、レジンが経年劣化で黄変すること、更に私の使用する半球と下地がレジンと相性が悪く稀に貼り付け面に浮きが出てしまうという問題がありました。そのためこのやり方は長く綺麗な状態を保ちたいという目的から外れるので不採用としています。
その他のパーツ
目と同様に鼻や舌、歯も自作です。
使う材料は樹脂粘土だったりシリコンだったりその作品によって変わります。
犬毛を使う場合
羊毛の代わりに愛犬の毛を使いたいという要望を受けることがあります。
個人的には、このような場合は洗毛が必要だと思っています。
虫の被害を受けやすいということ、特に白い毛は微量な油分でも経年劣化で黄ばむからです。
長持ちさせるためにも出来る限り洗って頂くことをお勧めしています。
ただし、どうしても洗いたくない、黄ばんでもいいからこのままがいいというご要望があればリスクに同意頂いた上で使用いたします。
なお、洗い方については普通にザブザブ洗うとフェルト化して固まってしまうので、オーダーされた方に別途ご案内しています。
愛犬の毛を使いたいけれど、虹の橋を渡ってしまって毛が少ししか残っていない、というときは一部分だけに植えこむこともできます。また、植毛に適していない毛(短すぎる、脆くなって切れやすいなど)や、毛はないけれど体の一部(爪や歯、遺骨など)はある、という場合には命を吹き込む意味合いも兼ねて心臓のあたりに埋め込むことも可能です。